All Mine 「酔いの代償」 5


(Changmin)








この後の用事の為に仕事を必死にこなす。
久々にそんな事をした。

スーツのまま全力で走るのもここのとこ記憶がない。

自分で日時を決めておいて遅れるなんて。
まずそれが嫌だ。
それから
これがちょっと複雑で特別なものだったから、余計な事を何一つ起こしたくなかった。

綺麗に始まって綺麗に終わらせたい。
面倒くさくなりそうなものだから、そう思う。





駅の改札で柱に沿うように立つユノが僕に気付いて手を振り、勢いのまま駆け寄った。

「ユノっごめんなさい」
「え、いいよ。おつかれ」

立ち止まったらどっと汗が吹き出し、ユノの笑顔にポケットからハンカチを出して額を拭った。

「1時間半もズレ込むなんて…」
「しょうがないじゃんか。俺は連絡貰ってたから何の問題もなかったよ。それより早く店入って一杯飲みたいだろ?冷たいの。行こうか」

そう言われて、はっとなる。

「ぁ、いえユノ…予約したお店なんですけど、言った通り変更できなくて…」

週末の夜なんて予約しないとなかなかいい所は入れない。
焦ってて移動中にどこか抑えるの忘れてた。
急いでポケットからスマホを取り出したらユノが
「大丈夫。チャンミナが行かないような店なんだけど、そこお願いしといた」
駅の向こうを指差して僕に顎をしゃくった。







「おじさんごめんね、わがまま言って。とりあえず生二つ宜しく」
「ああ、いいよ。ちょうど入れ替えであいたしな」

店に入るとカウンターの向こうの大将らしいおじさんとユノが仲良さげに言葉を交わす。

ユノが連れてきてくれたのは、安い飲屋街の一番奥にあるラーメン屋。
入口の引き戸をカラカラと開けると、10人ほどが座れるカウンターがあって中で奥さんらしき女性と大将が忙しなく動いていた。
夕飯どきを大分過ぎたというのに店内は満員で、奥にある二階へ上がる階段までカバンを持ち上げ、壁にかかる上着を落とさないように気をつけながら座っている人の背中をたまに擦り、すいませんと小声で言いながら斜めに体を傾け進む狭さだ。

「ユノ二階の一番奥な」
「うん。ありがとう。ラーメン最後で先に適当に何品か作って。餃子いっぱいね」
「ああ、了解」

進みながらユノは慣れた感じで注文して階段を上って行った。


二階に上がると四人がけのテーブルが四つ。
部屋の端の窓際のテーブルが一つあいていて、そこが大将の言っていた席だと分かる。

こんな飲屋街のラーメン屋だからか、お酒の入った人の熱気と料理のせいで多少蒸し暑い室内に僕達は上着を脱ぐとネクタイを緩め、ユノは「はぁー」って息を吐いて横の窓を少し開けた。

「疲れただろ?仕事平気だったの?他の日でも良かったのに」

ユノは緩めたネクタイが邪魔だったのか、結局外してカバンの中に押し込んだ。

「いえ…本当にすみません。まさか午後になって予想外の仕事が入るなんて」
「しょうがないじゃんか、仕事なんてそんなもんだよ。暑い?ごめんな、ここ小洒落た空調なんて無いから窓開けてな?」
「あ、いえ、走ってきたからで……」

汗が引かない僕がシャツのボタンを外し腕を捲っていたら、奥さんが持ってきてくれたジョッキが視界に入りつい笑顔になる。

「ああ、でもあれ飲めばすぐに収まります」
「いい笑顔だな。ほんと好きなんだ?」
「はい。…僕、ビール大好きだけど実はラーメンとかこういう料理も好きなんです」
「あら嬉しい」

ビールと共に搾菜や青菜の炒め物を並べていく奥さんが、僕に弾んだ声を上げた。

「こんなカッコいい子に言われると作り甲斐があるわー。サービスするからどんどん食べてっ」
「ありがとうございます。美味しそうです、いただきます」

頭を下げて箸を手にしたら
「おいおいっ」って
目の前で頬杖をついていたユノがジョッキを掲げた。

「まずはこっちだろ?ほら飲みなよ。お疲れ様チャンミナ」

その笑顔につられて僕は慌ててジョッキを手に取る。

「お疲れ様です。ユノ」

カチャンと音をさせてビールを口にしたら一気に煽る。
冷えたビールは喉に程よい刺激と苦味を運んできて、その美味しさに止まらない。

「えー?!すいませーん。クミさんっ生もう一杯追加ね」

ユノの注文と階段を降りるクミさんの笑い声が聞こえる中、飲み干したビールに大きく息をついた。

「あーっうまっ」

汗をかいた後の冷えたビール。
こんなに美味しいのは久々かもしれない。

「ほんとチャンミナのなにかを口にする姿はいいなぁ」
「また言ってる」

ユノの瞳が細まって、それから右手で僕に促す姿がチクんと胸に痛みを走らせる。
その視線が昔から変わらない。
こんなシチュエーションを何回も繰り返した記憶が蘇る。
あの頃の思い出は良くも悪くも強烈。

それを偶然とはいえまた目にするなんて。

だけど偶然で終わらせればいいのに
ユノの言葉の所為にして
何だかんだ思いながらも僕はユノにまた会った。


あー自分は都合いい。

ほんとそう思う。


ハァ…と息を吐いたらユノが箸を手に笑顔を見せた。


「ここの炒め物は美味いよ。冷めないうちに早速食べよう」
「あ…はい。いただきます」

頭を下げて僕も箸を伸ばす。

そうだよ。めちゃくちゃうまそう。
喉が鳴る。
遠慮もなく大きく摘んで口に入れると
シャキシャキとした歯ごたえとニンニクが堪らない。

「美味いですね」

口を動かしながら上目遣いで盗み見たら、ユノは僕に気付かず豆苗の塊を摘み口を開く。


……あ。


限界まで開けた口から漏れた幾つかの緑が落ちていく。
相変わらず食べるのが下手。いや口の開く幅が思ったより小さいんだよな。

落ちた豆苗から視線を戻すと、不意にユノの瞳がこちらへ動いた。
合わさる視線がちょっと眇められる。

「はは…」

照れ臭そうにユノの口が歪み、上唇の端にある黒子が目に入る。

そういえば相変わらず黒子はあるんだな。
当たり前の事を思う。

それから僕はビール臭いため息をついた。


「もうっまたポロポロこぼしてっ」

乗り出して指で豆苗を摘みお皿の隅に置くと、お手拭きで残った油を拭いた。

「……ごめんね」
「いいですよもう。いつものことでしょ」
「ひどいなぁそんな事ないよ。たまたまだって」
「どうだか」

はっと鼻を鳴らして搾菜を口にしたら笑い声が聞こえて顔を巡らした。

「二人共仲良いわねー。兄弟?違うわよね?」

「そう見える?」
「仲良いですか?!」

僕達の声が同時にかかって、ビールと焼豚を手にしたクミさんは一瞬立ち止まってしまった。それから堪え切れないというようにクスクスと含み笑いでテーブルへ皿を置く。


「仲良く見えるわ。本当に兄弟みたい」

「だって。チャンミナ」
「…はぁ。不本意です」

「あら、なんで?」

「え?」

質問されるとは思わなかったから思わず声が詰まる。

なんでって改めて言われると
困ってしまう。

「え…だって…」

ユノとの今の状況を説明するわけにもいかないし、確かに仲良いと言われて違うなんて言い返すのもおかしい気がしてきた。


だって。

仲良いって。



『あなたはおかしい。うちの子に今後近づかないで。仲良くしないで』



昔の

あのユノのお母さんの表情が一瞬、脳裏をよぎった。


…そう、仲良いのはおかしいんだ。

だけどまた会った。


でも今は違う。


…ああ

ユノとまた会うって
こんな棘のような痛みもまた思い起こしてしまうんだな。


でも僕達が離れた時間分
僕は大人になったんだ。

今は違うから。


こんなことさえ懐かしいと
痛みさえ嘲笑と苦笑で受け流してしまうほど。




「……ユノと仲良いのは…」



なんて言えばいいのか少し逡巡してから

「だって……僕は昔からこの人のお世話ばっかりなんで…それが仲良いとか言われると…」

間違っていない。
ゴニョゴニョと歯切れ悪く言い訳した。

「あら大変」
「酷いなぁ」

すぐに二人から笑い声が返ってきて
この話は「他愛ない」会話のひとつに変わった。












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明日もチャンミンside。
ラストはある意味仲良しさんなのでwご安心を( *´艸`)


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